森林資源の循環利用を後押しする木質系新素材の開発が広がっている。国内人工林の70%が利用期を迎える中、農林水産省や林野庁は建築物への国産材利用を推進。さらに、建築材として活用されなかった木材から高機能素材を生み出す取り組みを進め、森林資源の価値向上につなげようとしている。木質系新素材は木材や樹皮、枝葉といった森林由来の木質資源に対し、含まれる成分を取り出して製造する新たな材料。伐採樹木のうち、収益の大半を生み出すのは建築に利用される太く真っすぐな材や小曲材、小径材。一方で枝葉や曲がり材などはチップ化されて燃料やパルプ原料として利用、価格は建築材に比べて安い。木材チップから高機能素材を生み出せれば、林業収支の改善につながる。林野庁研究指導課は「森林所有者に利益を還元していかなければ再造林も進まない」とし、木質系新素材に期待を寄せる。木質系新素材、主に木材を構成するリグニン、セルロース、ヘミセルロースといった成分を抽出し、それぞれの特性を生かして活用。リグニンは「改質リグニン」や化学原料の「PDC」が注目。高機能プラスチックや接着剤の原料として利用、石油由来プラスチックを代替し温室効果ガス(GHG)の排出量削減に貢献。また、上田ブレーキ(大阪市都島区)は改質リグニンを活用したブレーキシューを開発中、京王電鉄が車両での走行試験に取り組んでいる。ヘミセルロースは生分解性プラスチックや繊維材料の原料。セルロースからはセルロースナノファイバー(CNF)やファインセルロースナノファイバー(FCF)が生み出される。CNFはすでに、木材の新たな需要先として存在感を高めている。バイオナフサやバイオエタノールも生成。研究段階ではユニークな取り組みもある。森林総合研はセルロースを原料とした「木の酒」の開発を進める。木をすりつぶしてむき出しにしたセルロースを酵素でブドウ糖に分解後、酵母発酵。ヤマザクラ由来の酒は桜餅を思わせる香りを持つなど、樹種ごとに異なる風味を引き出せる。ただ、課題も多い。木質系新素材には品質の均一性が求められるが、例えば改質リグニンの原料となるスギは全国に偏在生育するものの「異なる気候で育ったスギからは同じ品質の木質資源を得られない」(林野庁研究指導課)。地域特性に応じた原料供給体制の構築が欠かせない。また、原料調達や成分分離の工程には多くのエネルギーを要し、現状では従来素材よりコスト高。製造工程の効率化に加え、リサイクル可能な素材開発も進められている。木質系新素材は利用期を迎えた森林資源の価値を高め、国内林業の成長を支える有力な選択肢になりつつある。
*ふみ注:PDC( 2-pyrone-4,6-dicarboxylic acid);注目の次世代のバイオプラスチック(バイオポリマー)の基幹原料。リグニンを遺伝子改変した細菌(SYK-6株など)で微生物発酵・変換したもの。